とある世界に苦題 「聖騎士下克上制」終幕

呪文の直撃を受け、派手に吹っ飛ばされた二名の騎士の治療。さらに、とばっちりを食らった野次馬の輸送でてんやわんやの中庭を、少女は駆け抜けた。舞台上で高笑いを奏でる、彼女のヒーローの元へと。

「ホワイト・ローズ様! ありがとうございますっ!!」
「ーっほっほっ――って、ぷみぎゃ!?」
小柄なアメリアの体格からは想像も出来ない力で繰り出されたタックルを受け止めきれず、二人は無様に倒れこむ。倒れてもなお、自らの体にしがみついて離れない少女の頭を、ホワイト・ローズは優しく撫でた。

「……貴女の境遇は、辛く厳しいものかもしれないけれど、諦めなければいくらでも新しい道は見つかるものよ。
 だから、自分を安売りするのはおやめなさい」
「はい……心に、命じます」
ふわりと花のように微笑んだ少女の顔を見つめ、ホワイト・ローズもまた微笑む。
その様子を陰から見ていたクロフェル候は、ハンカチ片手にむせび泣き始め――慌てた騎士団員に連れ去られていった。ばれたらどうするんですかと叱られながら。

「あの……ぜひ、お礼をさせて頂けないでしょうか? すぐ、お茶の席をご用意しますから」
「えっ!? あー、あの、その……ど、どうしようかしら、ね」
「正義のヒーローとしての活躍、ぜひ伺いたいんですっ!
 よろしければ、夕食もご一緒に。寝所も用意させますからっ!」
「でも、ほら……ね。私の力を必要としている人達がまだまだい――」
「あー、そういえば今朝方、今年の新酒を納めに来た馬車を見たような……」
「ふっ、仕方ないわね。一晩だけよ」
アメリアを腰にぶら下げたまま、すっくと立ち上がったホワイト・ローズは、高貴でほがらかな笑い声とともに、本殿へと歩き出した。その後を追うアメリアが、本殿の入り口で不意に振り返る。

ほころんだ桜色の唇から、無音で紡がれるその言葉――


ミ・ン・ナ、ア・リ・ガ・ト・ウ


――それこそが、セイルーン城に仕える全ての人々が待ち望んでいたもの。

一年ぶりに再会した仲むつまじい姉妹の背中を見送った人々は、誰からともなく喝采を上げる。
それはセイルーン城内一杯に響き渡り、茶番の成功と終わりを告げた。


もうちょっとだけ、続くんじゃ。


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