とある世界に苦題 「聖騎士下克上制」茶番の終わり

夜勤の兵士以外は皆寝静まり、日付も変わろうかという半宵の刻。
黒曜石にも似た長い髪と、漆黒のマントが風を受け、夜空にはためく。
特異ないでたちに似合わぬ、一輪の純白のユリを携えて。

闇をまとったその姿が音もなく舞い降りた先は、セイルーン城内の外れ。本殿を望む小高い丘に、ひっそりと佇む墓石の前。淡く柔らかな月明かりを浴び鈍く光る御影石は、その中に眠る人物が、生前多くの人に慕われていた事実を、暗に物語っていた。


膝を折り、花を供える。墓に刻まれた名に触れる。
硬く冷たいその感触は、その人の命が散ったあの日を思い起こさせた。

「…………母さん」

墓石に縋りつき、いくら名を呼んでも、母は帰ってこない。あの頃には戻れない。
解ってはいても、グレイシアは呼ばずにはいられない。

「……かあさ、ん……」

周囲に人気はない。夜明けはまだ、遠い空の彼方。
声を上げて泣いてもいいんだよ、と。ここにはいない誰かの声が聞こえた気がした――。



実は、このシーンが書きたかっただけとか。げふん。
城を出た経緯が経緯ですから、素直にお墓参りに帰ってこれないと思うので。お城の人総ぐるみで毎年作戦を練って、ナーさんを迎えて(おびき寄せて?)もらえたら良いなーと。そんな妄想でした。


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