とある世界に苦題 「聖騎士下克上制」前座

セイルーン城内の外れ。本殿を望む小高い丘に、ひっそりとその墓石は立っている。
明日には色とりどりの花で埋め尽くされるであろうその場所には、今は一人の少女しかいない。

顔を出したばかりの太陽の恩恵を全身に浴びながら、少女は箒を片手に一心不乱に落ち葉を掃く。
白い装束が土埃にまみれる事も気にせず。肩で切りそろえた艶やかな黒髪に、にじみ出る汗が絡み、その肌にはりついても。

掃く。ただただ、掃く。

明日のために。
誰よりも早くこの場所を訪れるであろう、彼の人のために。

-------------------------------------------------------------------------------------------------------

同日、午後――。

セイルーン城中庭は、常に無い熱気に包まれていた。
城内の女中、兵士、神官、貴族――身分年齢問わず、その場を通りかかったもの皆全てが、足を止め、見入る。後に、上司に見つかり、呆けた時間分のお小言を食らう事になったとしても、それは見物するだけの価値があった。

視線の集う先は、六紡星型に象られた、石造りの舞台。
その舞台上に、一糸乱れず整然と並んだ集団は、全員が鈍色のプレートメイルを身にまとい、その上には茜色のたっぷりとしたマントを羽織っている。腰に刺したダガーの柄と、プレートメイルの左胸には、六紡星を意匠とした揃いの紋章が刻まれていた。
それは、『セイルーン聖騎士団』の証。

傭兵とは、もちろん違う。警備兵とも、比較にはならない。
さらに高度な訓練を課せられた彼らの任務は、王族の護衛、各種式典の警護、国境線の警戒に、領内の治安維持と多岐にわたり、全団員が一堂に揃うことは滅多に無い。
今日は、その滅多に無い貴重な一日なのだ。

「静粛に! 第二皇女アメリア様から、お言葉を賜る!」
ひたり、と静まりかえる――外野が。
そもそも、騎士団員は誰一人として言葉を発していなかったのだ。

石造りの舞台より一段高くしつらえた壇上に、小柄な巫女装束の少女が登る。艶めく黒髪と、純白の衣装の対比が鮮やかなその少女の足取りは、スキップを刻みそうなほど軽い。
父親譲りの舞台度胸を身に備えた彼女は、壇上でにっこり微笑むと、よどみなく滔々と式辞を述べ始めた。聖騎士団の日頃の働きを讃え、苦労をねぎらい、団員の将来を嘱望する彼女の言葉に、嘘偽りは一切無い。

けれど、誰もが知っている。今は前座。空虚な序章。
お楽しみは――これからだ。

「……それではこれより、セイルーン聖騎士団による御前試合を開催します!!」

茶番劇は――――ここからだ。


前置きとして。騎士団他設定はすべて捏造。アメリア&クロフェルは演技派です。


inserted by FC2 system