学校設備で萌えて悶える10のお題 「教室の隅っこ」

(……お。ラッキー!)

オレはカバンを持ち、口笛交じりに席を立つと、たった今くじで決まった新しい寝床へ移動する。

窓際の最後列。
吹き込む風は、緑の香を含んで心地よく。
カーテン越しに浴びる日差しは、ブレザーを脱げば、眠気を誘うのに丁度良い。

いい季節に、いい席に当たったもんだ。
これから一ヶ月世話になる机の木目を指でなぞりながら、オレはにやっと微笑んだ。

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「――いい、ガウリイ? 日当たり、風通しの良い物件は、どこにいっても人気があるの。
 ゆえに、早い者勝ちなのよ!」
「……人気があるのはわかるが。
 だからといって、お前さんがオレの席を占拠していい理由にはならんだろ……」

部活の早朝練習を終え、自分の席で二度目の朝飯を食おうと教室に入ってみれば、そこには先客がいた。
先日のくじ引きで、廊下側最前列の席を引き当てたリナだ。

「窓際の席で過ごしたいなら、他にもあるだろ」
「隅っこの席の方が、何となく落ち着くじゃない」
「……まあ、その気持ちはわからんでもないが。オレ、他の連中が来る前に、朝飯食いたいんだけど?」
「前の席に、座れば?」
机にひじを突き、唇を尖らせたまま、リナはオレの席の一つ前を指差す。
確かに飯を食うだけなら、前の席でも何の問題もないのだが。ここで、こちらが折れるのは、何だか釈然としない。

しばし逡巡したオレは、リナの隣で膝を折ると、ほっそりした脚と細い腰に手を回し、小さな体を抱えあげた。
「――ふえっ!?」
慌てふためく彼女を抱えたまま、オレは自分の席に腰を下ろすと、自らの脚の上に彼女を降ろす。

「ちょっと! 年頃の乙女を気安く抱っこすんな!」
「そんな事言われても、ここはオレの席だしなー。リナが退かないなら、こうするしかないだろ?」
にやにやと笑ってみせると、リナの小さな頬がみるみる膨れていく。
今にも飛び降りそうな彼女の体を片手で抑えながら、オレは空いた手で手早く包みを開けた。

「――ほら」
リナの鼻先に、ツナサンドを突きつける。これは彼女の大好物。
ぷっくり膨れた頬はみるみるしぼみ、しばらくもじもじと躊躇ったあと、目の前の餌にかぷりと噛み付いた。


―――チョロイ。


知り合ってから何年経ったやら。リナの扱いなぞ、彼女の友人以上に心得ている。
咀嚼する事に忙しい彼女の脳内が、照れや恥じらいを産み出すには、今しばらく時間がかかるだろう。その時間を延長するためなら、朝飯ぐらい、いくらでもくれてやる。

オレは食べかけのツナサンドを一口で飲み込むと、可愛い雛鳥に餌を与えるべく、新しい包みに手を伸ばした。


隅っこ……それは人類安寧の地(言いすぎ)
初夏の窓際席も気持ち良いですが、冬の晴れ間の窓際席も格別ですねー。


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