学校設備で萌えて悶える10のお題 「音楽準備室」

準備室と名のつく場所は、大抵教師が使う物で。
生徒には、少々敷居が高い。

だがそこに、『理科』とか、『音楽』といった名詞を伴うと、また意味合いが変わってくるのだ。

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「リナ、足元大丈夫かー?」
「ん、平気」
玄関で、上履きに履き替えるあたしの足元を、ガウリイが手持ちの懐中電灯で照らす。
外部の建物に面した窓からは、外からの明かりが差し込むが、基本校内は既に真っ暗だ。

「……で、どこに行けばいいんだっけ?」
「あんた……五分前にも説明したでしょーが。音楽準備室よ、じゅ・ん・び・し・つ!」
「をを! それ、それ」
いかにも思い出した風に手をぽむっと叩く連れを、あたしはじと目で睨んでやる。
どーせ、五分後にはまた忘れるだろ、おまいは。

季節は夏。
もっと詳しく説明するならば、今は夏休みで、本日は部活の強化合宿最終日。
ウチの部長が言うには、合宿の〆は肝試し大会が恒例らしい。あたしとガウリイは、おどかされる組ってわけだ。
目的地は、この校舎の最上階にある音楽準備室。
一直線に目的地を目指してはおどしがいがないとのことで、全ての階を通らなければいけないらしく、面倒な事この上ない。

「どーせなら、おどす役のほうが良かったわ。そっちの方が、楽しそうじゃない?」
「お前が一番えげつないおどし方をやりそうだから、あえて外したってルークは言ってたぞ」
「……アノヤロー」
ルークめ、あとで覚えとけ。

ぶちぶち愚痴りつつも、歩を進めるあたし達。
階段までくると、ガウリイの方が夜目がきくということで、彼が先頭に立ち、あたしは懐中電灯を預かる事にした。転ばぬよう空いた手を握りあうと、再び先へ進む。

「しかしさ……あたしたちをおどして、楽しいものかしらね?」
「さぁ……どうだろうなぁ」


こんな事を言うには、当然理由がある。


「――アメリア。窓ガラスに服の裾が映ってる」
「ええっ!」

「ドアの陰の気配は……これはゼルかなぁ」
「……(何故わかるんだ)」

「ルーク、髪伸びたんじゃない? ロッカーの覗き窓から、はみ出てるわよ」
「んなっ!?」

「ゼロス……暗がりで気配消して待ち構えるなよ。怖いぞ?」
「僕に気づく、ガウリイさんのほうが怖いと思いますけどねぇ」

――万事、こんな調子。
観察力に長けたあたしと、獣並みの五感を持つと噂のガウリイ相手に、待ち伏せなんぞ出来るわけがないのだ。
結局、一度も肝を試される事はなく、あたしたちはすんなりと目的地へたどり着いた。

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「しかし。何でここが、肝試しのゴールなんだろうな?」
「……たぶん、アレが理由じゃない?」
吹奏楽部の生徒が使う楽器を、おっかなびっくり避けながらこちらへ来るガウリイに向けて、あたしは懐中電灯を振ってみせる。その先には、いかめしい肖像画がいくつもならんだ壁。理科室の人体標本と並んで、学校の怪談における定番品だ。
ガウリイは、初めて見たといわんばかりの表情で、おっさんの群れをしげしげと眺める。

「なるほどー……オレはこのおっさん達より、生徒指導室の方が怖いけどな」
「……概ね同意するわ」
余談だが、ウチの学校の生徒指導担当は、あたしの実のねーちゃんだったりする。

「えーっと……ここまで来た証拠に、あの肖像画の写真を撮ってから、戻れだってさ。
 あたしが携帯で撮るから、ガウリイ、懐中電灯持ってもらえる?」
「おー」
ガウリイに懐中電灯を渡すと、ジャージの後ろポケットから携帯を取り出し、照準を合わせる。
カシャッと電子音が響き、液晶に目当ての物が収められている事を確認したあたしは、携帯を閉じると出口へと向かおうとした。


――と、突如訪れる暗闇。


「……あれ? ガウリイ?」
懐中電灯の電池が切れたのだろうか?
天井照明のスイッチを探したいところだが、うかつに動くと、お高い楽器群にぶつかりかねない。
そろそろとすり足で移動しようとしたあたしは、背後からいきなり羽交い絞めにされた。
「――なっ!?」
「……リナ」
肘撃ちをかまそうとした右腕が、既の所で止まる。
さっきまでとは違う、低く甘い声であたしの名を呼ぶその意図は、説明されずともわかりきっていた。

「……あたし、今、汗臭いんだけど」
「お互い様だろ?」

「……もう五分もすれば、次の組が着ちゃうわよ」
「五分も余裕があるってことか」

「……誰かに見られたら、どーすんの?」
「こんな真っ暗闇で?」

言い訳は、ことごとく瞬殺された。……どうやら観念するしか無さそうだ。
汗ばんだ腕の中で体を反すと、あたしはゆっくり顎を引いた。

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――暗闇というのは、実に都合のよい代物だ。
例えば、赤く火照った顔を隠したり。
汗のにおいを、お互いで誤魔化したり。
窓の外で待ち構えていたヤツのカメラを封じたりとか……ね?

「うわっ……ちょっ! このカメラ、フラッシュのスイッチはどこだ!?」
ベランダから漏れ聞こえてきた声に、あたしとガウリイは思わず吹きだす。

……ランツめ、ざまーみろ。


主要キャラは前半で使ってしまったので、最後のオチを誰にするか悩んだのですが。 (ミリーナはこんな事しないだろうしなー)
一番最初に浮かんだランツを使ってみました。……ナーガもありだったかな?

ところで。普通、作曲家の肖像画は音楽室に飾るものだと思うのですが。なぜか、私の母校は準備室に飾ってありました。……落書きでもされたのか?


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