10の欠落 「さみしい、という感覚が消えたら」

滅多にない事だからかもしれない。
……それは、言い訳かもしれない。

あたしが、子供だからかもしれない。
……あんまり、認めたくはない。

けれどこんな時、さみしいと感じなくなってしまうなら。
いっそ、子供のままでいたい――そんな気もする。

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寝返りをうった拍子に降りかかってきた自らの髪が、頬を覆う。
そのくすぐったい感触に耐え切れなくて小さく首を降ると、武骨な手が伸びてきて、優しく髪をかき上げてくれる。宝物のように繊細に扱ってくれるその手が嬉しくて、あたしは隣に横たわる大きな胸板に額を擦りつけた。
頭上でこっそりもれたため息は、聞こえないふりをしてやる。
へへ、たまにはいいじゃない。
宿の外は雪だし、あたしはあの日で体はだるいし、あんたは体温高いし、くっつけばぬくぬくだし。
快適な寝床に、思わずにへらっと笑みが漏れる。

ガウリイがこんな風に添い寝をしてくれる事は、滅多にない。
まぁ、あたしは年頃の乙女だし、ガウリイも一応分類上男だし、当たり前と言えば当たり前だけど。
けれど、今日みたいに体調が悪かったり、冬なのにどうしても野宿をしなければいけない状況に陥った場合は、あたしの様子を見つつ添い寝をしてくれる。
最初はちょっぴし恥ずかしかったものの、自称保護者を名乗るだけあって、一切やましい事をしてこないガウリイを見ていたら、変に意識していた自分が馬鹿らしくなった。

なにより、こんなにぬくぬくなのに。
ガウリイが、いっぱい優しくしてくれるのに。
幸せな気持ちで、胸がほこほこするのに。
堪能しなきゃ、勿体無いじゃない。

髪を梳いていた手は、いつの間にかあたしの背へ回され、一定のリズムを刻んでいた。
その優しい振動が、とろとろとしたまどろみへ誘う。
ふわり、と意識を手放しそうになったその時――空気が、揺らいだ。

とっさに手が伸び、動いた気配を捉えようと手のひらを握り締め――あたしは目を見開く。絡めた指の先には、見慣れたガウリイの上衣。
しまった……また、やっちゃった。

「……リナ?」
体を起こしかけていたガウリイが、耳元で低く囁く。
あたしは顔を上げることが出来ず、もそもそと毛布の中に潜り込んだ。

――行かないでよ。

喉元まで出かかった言葉を、既の所で飲み込む。
目が覚めた時、あんたが隣に居ないのがさみしいなんて言ったら、子供だとからかわれるに決まってる。

ため息をついて、そっと握り締めていた服を放す。
でも、気づいて欲しくて、その胸にもう一度額を擦り付けた。
あきらめにも似た吐息と共に、背中に回された大きな手が、再び優しい律動を刻み始める。
けれど、あたしの心に満ちていた暖かな何かは、さざ波のように引いていった。
いつもの事なのだ。どんなに引き止めても、目が覚めた時に、ガウリイが隣に居てくれたことはないのだから。

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あたしの気持ちは、子供じみた我侭なのだろうか。
大人になれば、さみしいなんて思わなくなるのだろうか。

でも――。
目を開けて。あんたが、隣に居なくて。
それを平気だなんて、感じたくないよ。

……ねぇ、気づいて。
さみしいよ、ガウリイ。


添い寝してもらった後、目が覚めて隣に誰もいなかった時の、あの喪失感って何なのでしょうね……。すごく苦手です。


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